筑波技術大学
建築系コース
Tsukuba University of Technology
Department of Architecture Course

梅本(切原)舞子 研究内容テスト

  • Home
  • 教員紹介
  • 梅本(切原)舞子 研究内容
  • 梅本(切原)舞子 研究内容テスト

Bricolage 引退競走馬と進める暮らしのリ・デザイン

競⾛⾺の⾥、茨城県美浦村に⽴地するBricolageは、⾺と⼈の暮らしをリ・デザインする拠点です。引退競⾛⾺の余⽣支援を核に、地域の⼦ども・障がい者・⾼齢者・企業が集い、⾺を通じた農業振興・社会教育・リハビリを推進しています。引退競⾛⾺の新たな⽀援モデルであり、⾺を起点とした地域コミュニティの再⽣を⽬指しています。

私はハル建築研究所の堀田浩平さんと共に、空間計画を行いました。計画にあたっては、建築系学生が学内コンペを通して「馬との視覚的コミュニケーションを重視したプラン」を提案しました。「手話言語など音声以外を用いるコミュニケーションは、馬と人とのコミュニケーションにおいても同様だ」とお施主さんが感銘を受けられ、コンセプトの一つとして採用、実施設計を進めていきました。計画をつめるにあたり、模型製作や各種調査も、建築系学生が担いました。

2018年12月に構想スタート、2023年8月に竣工、10月に最初の馬の引っ越しが完了して以降、現在進行形で様々な活動が展開されています。
そして、2025年10月、”地域循環型の動物福祉を実装するプロジェクト”として評価され、GoodDesign賞を受賞することができました。

Introduction

毎年7千頭を超えるサラブレッドが生まれ、中央競馬、地方競馬、合わせて毎年1万頭超の競走馬が引退しているそうです。
引退競走馬のセカンドセカンドキャリアの構築は、競争馬の生産地や育成地を中心に、動物福祉地域活性の両軸で注目されています。

Concept住宅スケールで馬と人の暮らしの場を作る

従来の大規模施設でのプロによる閉鎖的な運営では、セカンドキャリアの拡大に限りがあります。

そこで、今や特別な存在となった馬との暮らしを、かつての農家住宅のように再び人の日常に近づけ、誰しもが支援の担い手になれる、暮らしの場を目指しました。

LocationJRA 美浦トレーニングセンターに隣接

引退した競走馬関係者が多く暮らす地域であるため、担い手を確保しやすく、現役の厩務員や獣医師との連携も容易な環境にあります。
また、輸送に伴う病気や怪我のリスクを回避し、輸送費を低減できるというメリットもあります。

Landscape馬との協働を可視化したランドスケープ

馬搬材による建物や広場、馬耕によるぶどう畑など、馬との協働の営みを、通りから一望できる。

Architecture馬と人の間合いのデザイン

馬と人との間に潜む信頼関係の再構築を目指すべく住宅規模の分棟配置とし、互いに“ 見える・聞こえる ”が容易となるよう、建物同士の距離や向き、建具を工夫しました。

馬と人が対等な関係でいられる住まいを

お施主さんからの1番の要望でした。
かつての日本には、曲がり屋をはじめ、馬と暮らすための住まいがありました。それらを参考にしながらも、相手は競走馬としてトレーニングを受けてきたサラブレッド。お互いに気配を感じつつも、一定の距離感が必要だと考えました。とはいえ、計画するのはあくまで”住まい”なので、大きなボリュームにはしたくありません。

そこで、馬の寝床である馬房と、人の寝床となるクラブハウスを分けることにしました。その上で、各々の棟の大きさが同じになるようにと、厩務の観察や試行錯誤を繰り返して辿り着いたのが、4間(約7.2m)の方形(ほうぎょう)でした。馬の寝床のサイズとしては、一般的な馬房よりも少し大きめの2間(約3.6m)四方が望ましいとのこと。つまり8畳、これは人の寝床としても一般的なサイズです。これを4つ組み合わせた1辺が4間の田の字の正方形が、1棟のサイズです。

4頭が入る馬房が2棟と、クラブハウスが1棟、全部で3棟の方形で構成しています。お互いに”見える・聞こえる”が容易でありながらも、一定の距離を保てるように建物を振った計画が見えてきました。

馬搬材を現しにする

お施主さんの次の要望は、建物を構成する骨組みに馬搬材を使うこと、そしてそれを現しにする(見える状態で仕上げる)ことでした。そこで、構造材を現しにする縦ログ構法を展開する福島県南会津の芳賀沼製作さん、そして岩手県遠野市で馬搬の普及活動を行う馬搬振興会さんに相談に乗っていただきました。

馬搬出材をどのように現しにすれば良いのかを様々に検討した結果、方形の中央1間分が適することが見えてきました。馬房棟は4頭が出入りすることになるため、それぞれの馬房の中央に出入り口が計4つ、そしてこれとは別の方向に窓が計4つ必要になります。そうなると必然的に、壁として残せるのは4辺の中央です。方形の各辺の中央1間を、馬搬出材を用いた縦ログにすることで、よりシンボリックなデザインになることが見えてきました。また、別途検討していたクラブハウスのゾーニングも、このルールに従うことで自然と開口部が確保できることがわかりました。

実際に使用したのは、新月に伐採され、丸太のまま3年の乾燥期間を経た馬搬出材です。遠野の馬搬出材を、芳賀沼製作さんの南会津工場にてパネル化したものが、各々の棟の中央の壁を構成しています。

人も過ごせるフレキシブルな馬房を

お施主さんからの3つ目の要望は、馬房を馬房としてだけでなく、フレキシブルに使えるようにすることでした。
一般的に馬の寝床となる馬房は、硬い壁で仕切られています。それはよく知られるように馬のキック力が凄まじく、簡単に壁に穴が空いてしまうほどの破壊力があることも一因です。
しかし、馬房を硬い壁で仕切ってしまうと、馬房は馬房としてしか使えなくなります。当たり前ですが、馬も病気をして入院が必要な場合もありますし、いつかは生涯を終えます。つまり、ここにいられる馬の数は、変動します。また時に、馬と人が隣り合って眠る日だってあって良いかもしれません。

そこで、馬房は固定した壁で仕切るのではなく、取り外し可能で視線交流もできる格子状のパーティションで仕切り、空間を様々に設えることができるようにしました。大きな力を受けても建物には影響が出ないよう柱や梁など構造材からは分離し、環状にすることで自立するパーティションとなっています。また、馬房として使用しない時は取り外し、屋外でサンシャインパドック(屋外の放牧場)用の囲いとしても使用できるようにしました。

さらに、馬と人のコミュニケーションを邪魔しない様、馬房のドアや窓には引き戸を採用しました。馬房ドアにの上部にはスリットも入れています。夜は月あかりの下で、馬と人が静かに過ごせるようにしました。

既存施設と大きく異なる仕様に、当初は戸惑いの声もありましたが、人や馬同士、気配を容易に感じ取れる環境下で、馬たちは穏やかに暮らしています。

ドアや窓には引き戸を採用、馬房は壁でなく可動式の格子で仕切る

Support System

日常の余生支援は、美浦村在住の馬主を主体としながらも、引退厩務員や現役のスタッフなどプロによる支援のもと、ここに集う小学生から中高年までのアマチュアも引退競走馬の余生支援を担っています。

この拠点で各々活動を展開する代わりに、馬の厩務にも携わる互助の関係で成立しています。

Collage of activities

ワイン用ぶどう栽培、部活動やリハビリ等の関係者が馬を起点に交わり、活動のコラージュが進んでいます。

農業・産業分野では、敷地南側でワイン用ぶどう栽培を行うヴィンヤードや美浦村の農業機械メーカーと連携し、引退競走馬の畜力による耕運・草刈り、馬糞堆肥を加えた土壌改良によるぶどうで、2025年3月初のナチュラルワインの製造・販売を実現しています。

教育分野では、美浦村公認地域クラブや、放課後等デイサービスの子どもたち20名程が、毎週拠点を訪れており、乗馬のみならず、馬耕練習から厩務まで、馬の生を学ぶ活動を行っています。

さらに脊椎損傷など重度肢体不自由者が定期的に訪れ、馬との触れ合いや乗馬によるリハビリを楽しんでいる。

地域クラブでは将来プロを目指す中高校生も練習に励んでいる


2025年3月、初めてのナチュラルワインの製造・販売を実現


毎週末の馬と共に過ごす時間


ヴィンヤードの協力を得て馬のためのにんじんを育てる


プロのサポートの下のリハビリテーション


獣医師の助言を聞く地域クラブの高校生


農業機械メーカーが開発したプラウにてプロに馬耕指導を受ける

活動の様子の映像

撮影・編集
ハル建築研究所 堀田浩平(@hotta_kohei)

建築概要

所在地 茨城県稲敷郡美浦村
建築主 株式会社ブリコラージュ
監修・基本設計 筑波技術大学・梅本舞子
実施設計・監理 ハル建築研究所・堀田浩平
施工 株式会社福家工務店
馬搬出材 一般社団法人馬搬振興会
構造・馬搬出材の
パネルログ化と建て方
株式会社芳賀沼製作
外構 株式会社東陽企画
敷地面積 994.42㎡
建築面積 176.01㎡
延床面積 158.10㎡
最高高さ 4.38m
構造 木造平家建×3棟

写真撮影
ToLoLo studio、ハル建築研究所 堀田浩平

ご協力いただいた皆様
株式会社L.S.プランニング、株式会社VIN馬(@Vinba_2021)、美浦ホースクラブ(@miho/horse.club)、合同会社オールラウンド(@allround_2022)、スガノ農機株式会社